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2016/10/03 お知らせ

登山界“おちこち”の人、女子美術大学名誉教授(スポーツ生理学専門家)の石田良恵さんに聞きました。

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平成28年10月10日 第387号
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インタビュー連載 第19回

山の世界の彼方此方で活躍している人々をたずね、「そうだったのか。」を聞き出します。

定年退職後登山に目覚め、国内から海外の山々にまで足を延ばす、女子美術大学名誉教授石田良恵さん。スポーツ生理学専門家ならではの著書、“いつまでも山に登れる”「山筋ゴーゴー体操」について聞きました。

── 毎年、警察庁がまとめる山岳遭難件数は増加の一途をたどり、減少に転じません。とくに中高年者の転倒、滑落が目立ちます。60歳以上の女性の事故が多く起きていると言われています。そんな中で「山筋ゴーゴー体操」が出版されました。

 私が登山を始めたのは定年退職した後ですから、まだまだ登山はビギナーの領域です。そんな私でも登山は生涯楽しめるスポーツだとわかりました。その反面で、ちょっとした油断が重大な事故につながる危険もはらんでいます。たしかに近年、中高年者の中でもとくに女性の事故が目立っています。このような中で日本勤労者山岳連盟の女性委員会のメンバーと出会い、安全登山のための体力づくりが必要なことを痛感したのです。
 そこで、スポーツ分野の研究者仲間にも協力してもらい、5ヶ年計画で、中高年女性登山愛好者の体力測定をしました。わかったことは、登山を続けていても加齢とともに筋肉量は明らかに減少していくことでした。これらの問題をどうしたら予防し、改善できるか検討する中で、下肢の筋力を強化するためのトレーニング方法である、「山筋ゴーゴー体操」が生まれました。それから冊子をつくり、筋力トレーニングの講習会を全国各地で開催しました。より効果的な筋力アップをめざすために正しいトレーニング法をDVDで学習する必要性も感じました。
 著書の「山筋ゴーゴー体操」(桐書房刊)にはDVDも付けています。スポーツ生理学の観点から、「山に登る力」を身につける方法を日本勤労者山岳連盟の会報「登山時報」に連載し、それに加筆、整理して一冊の本にまとめました。図解も豊富に入れていますから、1日15分、これを続けてみませんか。筋力トレーニングはいくつになっても遅くはありません。必ず成果がでます。


── 加齢と筋力低下を目の当たりにすることによって、自分の体力年齢を知り、筋力トレーニングの必要性を著書のなかで訴えています。

 登山を続けていても筋肉量は年々落ちます。山に登ることは経験値の蓄積にはなりますが、筋肉量が維持されるわけではありません。実際には加齢とともに筋肉量や筋繊維の数が減少していきます。人はその宿命として加齢とともに身体のあらゆる気管や機能が退化・萎縮する方向に進むのです。
 加齢に伴って筋肉量が大きく変化する部位があります。大腿前部と腹部の筋肉は急速に減少していきます。更に大腿及び下腿後部、大臀筋、大腰筋、脊柱起立筋、広背筋などで、中でも下肢の筋肉にその現象が多く現れ、これらの部位の筋肉は安全登山には大変重要な働きをしています。
 日ごろ運動を意識していなかった70代になろうとする人でも、簡単な筋力トレーニングを3ヶ月間、毎日繰り返せば、体力が付いたことを実感するはずです(ただしやり過ぎはケガの元です)。加齢とともに筋力が落ちたからといって落胆することはありません。90歳でも筋肉は鍛えられています。20代よりも、その効果が低くなっても筋力トレーニングの効果は証明されています。現在の自分の身体を自覚し、恒常的な筋力トレーニングを日常生活の中に組み込んだ生活スタイルに変えていくことが大変重要なことです。


── では、いよいよ、筋トレ&ストレッチ編です。1日15分の“山筋体操”で、安心・安全登山に一歩前進です。いくつかのパターンが図示されていますが、そのうち、「これがお薦め」はどれでしょう。

 「山筋ゴーゴー体操」では、手軽にできる筋力トレーニングとストレッチを紹介しています。
 筋トレは、「背伸び」、「足の横上げ」、「スクワット」、「座位でのもも上げ」、「フロントランジ・バックランジ」、「腕立て伏せ」、「片脚立ち」、「イスを使った太ももの筋トレ」、「台の上り、下り」の9パターンです。
 ストレッチは、「ふくらはぎ、アキレス腱」、「股関節、大腿前後」、「大腿の内側、股関節、肩まわり、背中」、「大腿前側」、「上半身」の5パターンです。
 筋トレの中の「スクワット」は、大腿四頭筋の強化です。登山で主に使う筋で、下りの歩行では早さを抑え、着地のとき体重を支えます。この部位を強化すれば膝や膝まわりの関節痛などの軽減と予防、改善も期待できます。「フロントランジ・バックランジ」は、股関節の柔軟性を高め、大腿前・後の筋や大股筋を強化し、同時にバランス能力を高めます。大腿前・後の筋は上り下りで重要な筋、大股筋は、急斜面、岩場、梯子などの場面で重要になります。
 ストレッチの中の「股関節、大腿前後」は、腸腰筋、股関節、大腿前後の筋を十分に伸ばします。「大腿前側」は、登山で主に使う大腿前側の筋群で、とくに十分なストレッチが必要です。登山中も休憩時にこの部分をゆっくり伸ばすと疲労回復や大腿前後の筋群のけいれん予防にもなります。


── 著書の中ではもっと多くの図解で解説されている、筋トレとストレッチをここではそれぞれ2種類だけ紹介してもらいました。

 登山は重いザックを背負って長時間行動する特殊なスポーツですが、年を重ねても山を選べば、歩くことのできる人は山へ登れます。でも安全に長く登山を続けるためには科学的で効果的なトレーニングが必要です。山へ行く人がもっと増えて欲しいと思いながら、74歳を迎えて自らが実践し、登山にあてはめたわかりやすいスポーツ運動学を著書や講演など通じて発信していきたいと思います。今年の夏は白馬岳、赤岳、北岳に登りました。

 

(インタビューおわり)


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 陸上女子短距離でも活躍されてきた、石田さんの著書「山筋ゴーゴー体操」に、自分の体力年齢を知る」という項目がありました。さっそく挑戦したところ、「開眼片脚立ち」は、まず右足で120秒クリア、続いて左足で120秒クリア。さらに挑戦は続き、「イス立ち上がり―何秒かかるかな」は、時計の秒針でしたが、10回の立ち上がりでほぼ8秒。なんとかハードルクリアでした。終わったとたんに両足大腿部に心地よい疲れを感じたのは加齢のせいでしょうか。
 登山歴40年以上とはいえ、昔取った杵柄で山に行けば、自分の体力が明らかに低下していることをまさに身を以て知らされる団塊の世代を生きています。それでも山に行きたいから筋力トレーニングに励む、という挑戦の心構えを持ち続けたいものだ、と「山筋ゴーゴー体操」を読み終わってから心に誓ったのであります。
 

(平成28年9月13日 聞き手:黒川 惠)