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2016/11/29 お知らせ

登山界“おちこち”の人、登山系イラストレーター 鈴木みきさんに聞きました。

  Newsletter 2016年12月号
平成28年12月10日 第389号
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インタビュー連載 第21回


山の世界の彼方此方で活躍している人々をたずね、「そうだったのか。」を聞き出します。


登山系イラストレーターとして、実用コミックエッセイを多数出版。デビュー作、「悩んだときは山に行け!」は、山ガールブーム先駆けの書として大ヒット。近年アルパインツアー企画の山旅同行でも人気が高まっている、鈴木みきさんに山との出会いと山登りへの思いを聞きました。


── カナダで過ごした1年間、それが山との出会いでした。そこで登山を始め、山にのめりこみ、いまの活躍の場も山です。およそ20年前のカナダでの生活が発端となり、山との関わりはますます深まるばかりです。カナダでのことを少し聞かせてください。


 私の最初の本、「悩んだときは山に行け!」はカナダの旅から始まります。21年前、漠然と海外を旅したいと思っていた私の前にカナダ人のバーバラが登場して、「うち(カナダ)にくればいいよ。」と言うのです。バーバラは当時、日本で英会話スクールの先生をしていて、私は友人のガールフレンドとして紹介されました。そして1年半後にバーバラの帰国に合わせてカナダに渡り、グレイハウンドバスでトロントから1ヶ月半の旅が始まります。そしてカナディアンロッキーの玄関口、バンフの町で私は山に出会ってしまうのです。しかしまだ旅の途中のこのときは、まさかこんな山人生になるとは思ってもみませんでした。
 その迫力の絶景をバンフからジャスパーまで楽しもうと思ったのですが、公共交通機関がないのを現地で知って、「あら、どうしよう?」という感じでした。ユースホステルの掲示板でバンフからジャスパー間を2日で1往復するバス(途中下車可能)を見つけて渡りに船という感じ。でも2日で1往復なので到着したその先に進むには2日後しかありません。次のユースホステルまで歩いて行ったり、知り合った人の車に乗せてもらったり、ヒッチハイクもしましたよ。ロッキーに限らず、海でも街でも私たちの旅はいつもこんな感じでしたね(笑)
 旅に行っている以外はバーバラの友人の家にホームステイしていました。場所はハミルトンというトロントから車で1時間くらいの郊外の街です。観光ビザで入国していたので、ホストファミリーと普通の生活をしていました。


── 登山雑誌、「ヤマケイJOY」の読者モデルに応募して業界デビューしました。


 帰国後にカナダで見た山々が忘れられず、無性に行きたくなって本屋さんで山の雑誌を見つけました。私、日本のどこに山があるかも知らなかったんです。それでどうやって行ったらいいのかな〜とページをめくっていたら取材同行モデルを募集していたので「これだ!これなら連れて行ってもらえる!」と…ヨコシマな理由で応募しました。フリーターで時間の融通がきいたので、年に一、二度は声をかけてもらいました。でも「業界デビュー」なんて感覚はまるでなかったです。取材のときはここぞとばかりにカメラや編集の人たちからたくさん登山のことを教えてもらいました。


── 何シーズンか、白馬村八方の山小屋でアルバイトをしています。それから本格的に町にもどって、登山系イラストレーターへの道を歩むことになりました。


 カナダから帰ってから、アパレルブランドでアルバイトしていましたが、冬の閑散期は休職してスキー場のアルバイトに行っていました。そうしているうちにもっと「山のなかに身を置きたい」という願望が膨れ上がってしまい、アパレルのアルバイトを辞めて夏の白馬村のアルバイト募集に応募しました。村営関係の事業が多くあるので、八方池山荘に配属になったのはたまたまです。本当はグリーンパトロールがよかったのですが、登山経験があまりないので山小屋になったという感じでしょうね。
 山荘の1年目に不帰ノけんを越える縦走をしました。無知でしたから初縦走が単独での白馬岳から唐松岳でした。いま考えると「よく行ったなぁ〜」と驚きます。でもそこの山小屋の女主人が元々硬派な山ヤで、心配だったとは思うのですが勇気づけて見送ってくれたのが印象に残っています。


── 独特なイラストとコミカルなストーリーが読者の心をくすぐります。フリーター女子が山を舞台に心機一転活躍してわけですが、そのきっかけとなった人たちも、いまは、みきファンです。


 落書きをするのは小さいころから好きでしたが、絵を習ったということはありません。グラフィックデザイン科の専門学校には通いましたが、生活費を稼ぐためのアルバイトが忙しくて、熱心な生徒ではありませんでした。この分野で基礎がないというのは仕事を始める上でコンプレックスだったのですが、心優しい読者に支えられていまは個性ということで開き直っています。
 コミックのストーリーはすべて自分で筋書きからつくります。はじめに編集者とテーマを決めて、あとは白紙の紙を通常146ページ埋めていきます。けっこう大変な頭脳労働と手作業なのです。
 いまの私になるすべてのきっかけを作ってくれたのはヤマケイの編集者さんたちだと思っています。いち読者同行モデルからルポを書かせてくれるようになって、そのうちにイラストも使ってくれるようになって…、ヤマケイなしには「書く・描く」のを仕事にしようとは思わなかったと思います。でもイラストレーターになっていなくても山に仕えることは選んだでしょうね。例えばアルパインツアーとか!(笑)。


── 山岳会に所属しない、いわゆる未組織登山者が大勢を占める、いまの日本の登山社会ではビギナーが手にとってもわかりやすく、役に立つ参考書が必要です。近著、『山、楽しんでますか?安心安全のための「次のステップ」』(講談社)で読者に伝えたいことは何でしょう。


 私がそのコミックでお伝えしたかったのは第一に「初心忘れるべからず」ということです。しかしいつまでも初心者に甘んじず、もっと自発的に自由に登山をしてもらいたいということでもあります。意外と思われるかもしれませんが、ここ数年の登山初心者、とくに女性はとても真面目に登山をしています。真面目なのは悪いことではありませんが、情報が多過ぎるために教則本通りのルールに縛られ、山にまで人間関係を持ち込んで、まるで気忙しいのです。もしかしたら彼女たちにいま必要なのは、それを笑い飛ばして、たしなめてくれる先輩なのかもしれません。
 山は多少失敗しないと本当に登山に役に立つ力が自分のものにならないと思うんです。頭でっかちにならず、もっと自分の感性や経験を生かして、自分にちょうどいい、自分らしくて、心地よい登山を見つけてほしいと願っています。

(インタビューおわり)


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 鈴木みきさんは、狭い世界の登山界ではいままで出会ったことのないタイプの人。失礼ながら我が社の企画ミーティングでも、「その人だれ?あ、そうなの平凡社から出版したの。」、というところから、デビュー作を一気読みさせてもらいました。イラストの上手下手は絵心皆無だからまるでわかりませんが、コミックを読む気軽さの中に登山の基本的留意点などをさりげなく書き込んであるので、登山の原理原則には口うるさいベテランもきっと「うーん、なかなかうまいこと言うなあ」と安心して読了できます。
 ご本人は潜在能力の高そうな女子登山人的雰囲気を漂わせていながら、著書の中ではひけらかしもなく、それでいて初心者にとっては脱ビギナーへの良き参考書としてシンプルな筆致のイラストで山の魅力を描いています。てらいのないそんなところに、みきファンは惹き付けられるのではないでしょうか。

(平成28年11月21日 聞き手:黒川 惠)


アルパインツアーからのお知らせ
鈴木みきさんと行く 『山っていい友!』シリーズ

 2011年から、キナバル山を皮切りに鈴木みきさん同行ツアーを企画してまいりました。これまでたくさんの方々にご参加いただき、ありがとうございました。多くの出会いと笑顔に恵まれました。
 2016年は、5月に熊野古道へ、6月は初夏の入笠山、9月の連休に恒例のキナバル山、10月は紅葉の栗駒山へのツアーが実施されました。この年末には、エベレスト展望トレッキングが催行されます。そして、2017年の鈴木みきさんと行く『山っていい友!』は、キナバル山、韓国の名峰、国内山行などを計画中です。2017年3月に発表予定でおりますのでお楽しみに。

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