山旅情報誌 Newsletter

月刊「岳人」(東京新聞出版局)の投稿欄から
(本稿は岳人5月号掲載記事を抜粋し、補筆したものです)
投稿欄“かわら版”(4月号)に掲載された、ツアー登山の「根拠なき安全」に疑問、といった投稿記事を読み、「俺にも言わせろ」と言った気分になった。
この投稿記事の要旨は、@旅行業者が参加人数を決めるのはバスの座席数に関係している。A同行するリーダーがロープを使えない。B携行するツエルトの数も不十分で、Cツエルトさえも安全のための宣伝材料になっている。D同行リーダーは学生の山岳サークル程度の経験しかない。D予備日を設けていない。と、いったことで「結局は、すべて旅行業者側の都合に合わせた運営しかしていない」と結論づけ、「蓄積されてきた登山の常識をねじ曲げてまで宣伝文句に利用する」だから「根拠なき安全」であり、今後大いに議論すべきだとまとめられている。最後には、「登山文化そのものを衰退させないためにも・・・」と述べられている。
さて、@からDまですべての指摘が「すべての旅行業者」にあてはまるのか、そこに疑問をもってくれた読者はどのくらいいただろうか。多くの読者は、この投稿に「うん、そうだ、そうだ」とうなずいたのではないだろうか。いま、登山界は、そういった風潮にあるのかもしれない。
蓄積された登山の常識をねじ曲げ、根拠なき安全を宣伝文句にしている旅行業者がないとは言えないし、そのように錯誤される募集パンフレットも一部あるにはある。この投稿の指摘は一部あたっている。しかし、すべてではない。
旅行業者が関与するいわゆる「ツアー登山」についての賛否両論がかまびすしくなってきたのは、1999年秋の羊蹄山事件からだろう。しかし、心ある旅行業者は、もっと以前から苦虫をかみつぶしていたのである。
「40人も穂高に来るのに引率が2人だけかよ」とか、「北穂のクサリ場くらい、しっかり自分のグループまとめろよ。何でバラバラにさせるのか」とか、「山小屋なんだからもっと静かにさせろよな。朝っぱらからうるせーぞ」とか、「そんな狭いところで何十人もまとめて休むなよ。通れねーじゃねえか」とか、自分自身がそのようなところに遭遇しながら、はらわた煮えくりかえる思いで山へ登っていたのである。
で、そのような批判を耳にするたびに、「何で旅行業者ばかり後ろ指さされるのだろうか。何で十把一絡げに言われなきゃいけないの」と、この投稿を読んで、そのころと同じ気分になったのである。
一昨年7月に「旅行業ツアー登山協議会」が立ち上げられた。現在68社(7月20日現在)が加盟しており、昨年6月には半年かけて策定された「ツアー登山運行ガイドライン」が総会で承認された。このガイドラインには、指摘された部分への対応ももちろん含まれているし、ガイド・レシオ(参加者と引率者人数の比率)にもふれている。
旅行業者は、ツアー登山のありかたについて真摯な態度で取り組むことを開始した。これからの課題は、この「運行ガイドライン」にそった企画・実施が本当に実行されるのか、そこにある。と、同時にツアー登山に参加される一人ひとりの登山愛好者が「山は自分の体力と意志で登るもの」といったことを念頭におき、他人への依存心を捨ててかからないと、それこそ「登山文化は死滅する」だろう。と、私は思うのである。
(アルパインツアーサービス代表 黒川 惠)

全国山岳遭難対策協議会
「全山遭」は、文部科学省や警察庁が中心となって運営されている全国的な協議会である。42回目となる今年は7月14日、15日に福島市で開催された。
いままでの全山遭では、必ずといっていいほどツアー登山に対する批判や指摘が分科会で発言されてきた。この福島でもそうなるかと思ったが、登山愛好団体主宰者からの事例発表の内容も素晴らしかったので、かなり前向きな討議ができたとおもう。ひとことで言えば、どこかの国同士ではないが、「未来志向で」といったところだろうか。つまり、いままでは、山岳会等に所属していない未組織登山者と組織に所属している組織登山者とに分類し、未組織登山者の事故率が高い、どうにかすべきだ、といったことでおわってきたものが、「これからは、未組織登山者のグループ化を進めるために組織的で、より具体的な啓発運動をすべきだ」といったように進化した。すなわち、友人同士や単独で山登りをしている人たちにグループ化を勧めて、そのなかで登山の知識やマナーを学んでもらうことを実現しよう、といったことである。
さて、この協議会で発表された警察庁のまとめでは、平成16年中における山岳遭難は、
○発生件数 1,321件(対前年−37件)
○遭難者数 1,609件(対前年−57人)
○死者・行方不明者 267人(対前年+37人)
といった内容である。一見して発生件数と遭難者数が減少しているから改善傾向に見えるが、実際は、16年中には大人数での道迷い遭難が少なかったこともあり、改善傾向とはいえない。その証拠に死者・行方不明者は最近5年間で最悪になっている。
はたして「ツアー登山」はどうなっているかというと、警察庁は「ツアー登山の定義があいまい」といった理由からか、今年はまとめていない。そこで、長野県と山梨県の資料に目を転ずると、この山岳両県では減少していることがわかった。長野県では、昨年に比較して6件減少し発生件数は7件で、山梨県では、3件減少して発生件数ゼロであった。もちろん、全国の事例を精査しなければなんともいえないが、ツアー登山における山岳遭難が減少傾向に向かっている、と明言できる日は意外と近いのかもしれない。
しかし油断は禁物、「ツアー登山だから安心。でも安全登山は自己管理から」と世間で広く言われるまで、私たちは努力を重ねなければならない、と肝に銘じている次第である。」

   

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