山旅情報誌 Newsletter

夏が来れば想い出すはるかな尾瀬・・・、とは言いながら、私にとって初めての尾瀬沼行きは、家族ぐるみの友人一家の長女が環境省アクティブ・レンジャーに採用されたので、その仕事ぶりをみんなで視察してみようではないかといったことから始まった。

8月も第4週となると山にはもう秋風が吹いてくるはずなのに、大清水からの林道は照り返しが厳しく、まるで真夏だ。咲き誇る大柄なハンゴンソウの黄色がいつになく暑苦しい。岩清水の湧水が生ぬるく感じられたのは気のせいだけではないだろう。

展望のない山道をジグザグに登り、木道が出てくると三平峠で、群馬県尾瀬憲章の立派な看板が立てられている。憲章を読みながら汗をふいていると、場違いな雰囲気のお嬢さんが三人、まるで六本木の交差点を渡るように向こう側からやってきた。

「今朝バス降りて歩き出し、尾瀬沼を半周してこの峠に上がってきたの。大清水っていうところにバスが迎えに来るんですけど、ここからどのくらいですか?」とのたまうので、「どっから来たの?」と聞いたら「横浜です。」とのこと。「えーと、そうじゃなくて、バス降りたのどこ?」「うーん、なんていうとこだっけ。ねえ、あんた知ってんでしょ。」と仲間内で協議した結果「沼山っていうところでした。」と、やっと答えが出た。「添乗員さんは?」「知りません。きっとバスで迎えに来ると思います。」だって。「どこの会社のツアーなの?他の人たちは?」「20人くらいいましたけど、バス降りたらみーんなバラバラ。会社なんだっけ、インターネットで申し込んだから・・・」とのことで、そのお嬢さんたちの一人は、デジカメではない、一眼レフのカメラぶら下げて、みんな腰にトレーナーくくりつけて、スニーカー。雨具は持っていない様子。多分食い物なんて持ってないだろう。うーん、これが尾瀬ハイキングの実態か。
三平峠を下り始めて尾瀬沼を望むようになると、スポーツ少年団のような一団がどんどん登ってくる。尾瀬の木道は、入下山者の自動計測のために右側通行が励行されているから、たくさんの登山者と行き交っても混乱は少ない。三平峠下にも子供たちがたくさん来ている。夏休み最後のレジャーなのか、地域の活動なのかわからないが、子供のころに自然にふれることは大切だと思う。学校の先生とは思えない引率者の大人たちは本当にご苦労さまである。これだけ中高年、というより高年登山者がいきいきと登山しているのだから、そういった登山愛好家がお孫さんでも連れて山へ出かけてくれるようになれば、日本の山々もにぎやかになって、まだまだ日本をあきらめないですむのに、などと、ついつい仕事や教育問題まで考えてしまう。

環境省の建物は、長蔵小屋と尾瀬沼ヒュッテの間にひっそりと建っている。アクティブ・レンジャーは、まだ新しい制度で、全国11の環境省自然保護事務所の地域ごとに60人程度募集される非常勤の国家公務員で狭き門でもある。仕事は、自然保護官(レンジャー)の補佐が主たる業務で、どうしても事務作業から離れられない保護官に代わって、野外パトロールや利用者指導、自然解説などをおこなっている。勤務地によっては冬季を除く季節的な雇用となるのが一般の国家公務員とは異なるところだ。しかし、山や自然に親しんできた学生たちにとっては、なかなか魅力的な就業先ではないだろうか。都内にはそういった職種をめざす専門学校もあるくらいなのだ。最近たまたま車のラジオで、知床のアクティブ・レンジャーが自分の仕事のことを話しているのを聞いたが、彼はその専門学校の出身だと言っていた。日本はこういった方面での仕事をしてゆく面では決して恵まれてはいないが、レンジャーになるために勉強する青少年がいるかぎり、日本をあきらめるのはまだ早い。ねえ、そうでしょ、岡田さん。岡田さんは、あきらめない、なんて中途半端に言ったから負けたんじゃないの。

尾瀬は、けっこう山岳事故が多く、若手が多い役所の連中もそういったときにはかり出されるらしい。山の救難は本来業務でなくとも、いま起きている(かもしれない)事故を、見て見ぬ振りはできないのだ。旅行会社の団体の人数確認が曖昧で、バスに集合したら足りないから探して欲しいといった遭難事件もどきもあいかわらずあると聞く。
ところで、三平峠で出会ったお嬢さんたち、さっきの雷雨でずぶぬれになっているんじゃないだろうか、などと余計な心配もさせられた尾瀬の午後だった。

翌朝、下山するぼくらをアクティブ・レンジャーになったばかりの友人の長女が休暇をとって追いかけてきた。背中にはゴミの袋が山のように積まれている。結局自分らのゴミは、自己完結するために町へ下りる仲間が背負い下ろすことになっているのだ。

「このユニフォーム、山だとかなりいい感じですけど、町だとすごく目立つんです。それに汗かくとむれて、あせもができました。素材の問題かな・・・」と、君がつぶやいていた一言は、きっと霞が関に届くと思うよ。

制服をまとった心身のありかたはもちろん肝心だけど、それをもっと磨かせるために、レンジャー・ユニフォームこそ、日本で最高の素材を使い、誇りある制服として野外活動服決定版にすべきではないだろうか。そうすれば、町でも山でも、内面も外面も、もっと輝くはずだ。だってユニフォームは、組織の力とその向いている方向を明確に示すものだから。ねえ、そうでしょ、小池環境大臣。


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