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「山へ行こうよ」
茶髪でロン毛のにいちゃんや派手な化粧顔のねえちゃんが、一流ブランドの羽毛服やフリースを着て、デイパック抱えて、所かまわずうんこ座りしているのを見るたびに「世間の堕落」を痛感している。ノースフェイスやシェラデザイン、ケルティーやソレルは町中では似合わないはずなのに。
70年代のメイドインユーエスエイで育った山屋のはしくれには、なんとも奇異な情景が、いまやなんともおもわれない風景となってしまってからもう何年たつのだろう。
ぼくらの「アウトドア」は、「登山」そのものだった。山岳部生活で得た価値観は、岩と雪と重荷の克服だった。そんな中で一際輝いていたのが、「米国的野外生活」だった。30年前に、アメリカやカナダで目の当たりにしてきたそれらは、着るものから食べるものまで、まったく違っていた。それは、自然に対する価値観の差異でもあったのだろう。まさに百聞は一見に如かずであった。なんてことをノスタルジックに言っていても始まらない。
うんこ座りの青少年らに「山へ行こうよ」と言っても「へっ?」てなもんだろう。だからぼくらのターゲットは、まだ純真で、完全週休2日を手に入れた子供たちだ。とは言っても、いまの世の中、「うちの子は、どうしてますか?」とご心配になられる親御さんばかりが多いようだから、きっと多難な船出になるにちがいない。
信号無視の自動車が青信号で横断している人をはねたら、その責任は100対ゼロになるだろう。しかし、山の中では、信号が無いから自己責任が基本だ。そうは言っても、被引率者が児童であったら、原因が児童の不注意にあっても自己責任だけを声高には言えないのだろう、きっと。
そんなところにぼくらのためらいがある。その解消は、保護者の理解に他ならない。
子供のうちから自然に親しむ機会をたくさん持たせないと、これから先の日本はいったいどうなるのだろうか。豊かな自然が人の心をもっと豊かにさせることを知らない連中ばかりがこの国に増えつづけたらとおもうとゾッとする。わが家の息子もチビのころにはいろんな山へ連れていった。でも自分では行こうとしない。しかし10年前に買ってやったNZ製のマックパック(とにかく丈夫)を抱えて町でうんこ座りしていないことだけは確かなようだ。
野外活動は、人間の危険予知能力をさらに高めると、ぼくは信じている。だからこそ、次代を担う者たちへ、「山へ行こうよ」と呼びかけたい。ぼくらの仕事、ツーリズムがそのきっかけづくりになればよいとおもっている。
「日本へおいでよ」
政府は、12月20日の経済財政諮問会議で、観光産業を国家的戦略として発展させるために首相が主催する有識者懇談会を近く発足させることを決めた、というベタ記事を、12月21日の朝日新聞朝刊で見つけた。わずか20行たらずのちっぽけな記事でも、わが業界にとっては歴史的なことである。これは、訪日外国人ツーリストを増加させるために、入国手続きを簡素化するなどして、海外からの観光客を倍増しようというものである。入国手続きの簡素化だけで倍増することなど到底考えられないが、それでも、その姿勢は大きな変化を示している。さらに記事は、小泉首相は同会議で「今は海外から入ってくる人が約500万人。それを倍増してテンミリオンにすることを目標にすべきだ」と語った、としている。
うれしいではないか、歴代首相で訪日観光客倍増計画など表明した人はいなかったはずだ。もっとも日本から外国へ出かける海外旅行倍増計画は、昭和62年6月に運輸省が発表し、その2年後に1000万人弱、それから5年で約1400万人に達し、見事倍増を果たしている。そして現在は、1700万人くらいだろう。目標は達成するためにあるとはいえ、わが業界もなかなかやるではないか。
翻って訪日観光客はどうだったのだろうか。昭和62年当時は、215万人だった。それが現在では約500万人だから海外へ出かける日本人と日本を訪れる外国人との差は開くばかりだったのである。
最近10数年ぶりに米国の会社から「日本でのトレッキング旅行をおこないたい、日光や北アルプスや、高山、京都、広島を2週間くらいでまわりたい。手助けしてくれるか」とのファックスが届いた。この会社のグループは過去何度も北アルプスへグループでやってきて、中房温泉や燕山荘、槍ヶ岳山荘や横尾山荘、涸沢ヒュッテや西糸屋さんたちにずいぶんお世話をかけたことがある。この会社では、小が大を吸収するアメリカ的企業結合の経緯のなかで訪日トレッキングは沙汰やみになっていたはずだ。
そんなわけで日本政府のかけ声に呼応するかのような米国の同業者からの依頼はわが社にとってもうれしいものだった。この日本の美しい自然、とりわけ山岳の美しさを外国人に味わってもらい、山里の人々との出会いも楽しんでもらえたらとおもっていた矢先である。ディスカバー・リアル・ジャパンは、日本人にとっても大切なことだが、訪日外国人にとっては旅の目的そのものだとおもう。
外国人の訪日旅行のカテゴリーに「トレッキング」が含まれるようになったら、きっとわが社ももう少し儲かるかもしれない。そのきっかけをつくったのが政府方針だったとしたら、もう一歩踏み込んで、国家予算の配分も考慮してほしいものだ。他国の鉄道建設よりも自国の自然を大事にしようよ。
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