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Newsletterより抜粋

 文:渡部 秀樹(福岡営業所長)


横断山脈今昔
私が駆出しツアーリーダーだったころ、宮崎の「照葉樹林文化を考える会」の人達と雲南省北部の玉龍雪山山麓の街・麗江に入ったのは85年だからもう19年前の話だ。当時の中国旅行は国営旅行社独占で、未開放地では外事部のお役人が同行した。このお役人から初めて「横断山脈」という名称を聞き、世界にはまだまだ美しい未知の山域が存在することに驚いた。まだ麗江が(日本の屋久島も白神も)世界遺産に登録されるずっと前の話しだ。当時、麗江までは日本を出て4日を要した。今は昆明から飛行機で僅か40分だ。「西部大開発」は年々加速を増しているようだ。便利になることは良いが、少し複雑な思いもある。 「考える会」の人達にはその後、中国でも九州でもずいぶんお世話になった。メンバーの何人かは今、宮崎の「照葉樹の森を世界遺産にする会」で尽力されていると聞いた。私が「横断山脈」に特別な思いを感じるのは、今も昔も思いを共有できる人達がいるからだ。

広大な横断山脈を越える飛行便
横断山脈と言われている山域の範囲は広い。ヒマラヤの東の、アジアを代表する河川が集中する地域、西からヤルツァンポ川、イラワジ川、サルウィン川(怒江)、メコン河(瀾滄江)、金沙江(揚子江上流)。これらが集中し、ほぼ平行して東ないし南に流れる特異稀な地域(チベット自治区東部、四川省西部、雲南省北西部)の山脈群が横断山脈と呼ばれている。東西約800Km、南北約1000Kmの広大なエリアで、今なお未知な部分が多く残されている。 成都からチベットの都・ラサに飛ぶ定期飛行便は、まさに横断山脈を横断するフライトだ。機窓からの風景は地図の空白部も含む貴重なもので、四姑娘山、ミニヤコンカ、大雪山群、コンガ雪山、梅里雪山、カンリガルポ山群、ニェンチンタングラ山脈からヒマラヤへと向う。南北から東西に移り変わる山脈群が延々と連なり飽きることはない。 そして今年の春、成都からカトマンズへ定期便が就航した。横断山脈の横断飛行に加えて、さらにラサからヒマラヤも越えてしまうのだから夢のフライトといえよう。最短日程で往復するだけの企画があっても良いと思うほどだ。
横断山脈を飛ぶ

カンリガルポ山群調査隊

「最後の地図の空白地」といわれるヒマラヤの東・カンリガルポ山群は中村保さんの調査行によって世に知られるようになった。チベット最大のラグ氷河周辺の山々はすべて美しい無名の未踏峰であると知った私は、青蔵高原に造詣が深く「探検的登山」を提唱されている松本 夫さんにその高ぶる思いを伝えた。松本さんの思いはさらに強く、まさに「血湧き肉踊る」激しいものであった。 それがきっかけで日本山岳会福岡支部はカンリガルポ山群調査3次隊まで発展していった。未知の谷を遡行したり、5,000m級の山に登ったりしているうちに「地図にない幻の湖発見」でちょっとした話題にもなったりしたが、無名峰の地元での名前や意味を確認し、未踏峰を地図上で明らかにするなど地道な活動を続けている。今後は若い世代に未踏峰登山として引継がせることが課題だ。

横断山脈研究会
先日「横断山脈研究会」の第10回総会が北九州の皿倉山山麓で開催された。中村保さんが会長のこの研究会はかなりマニアックではあるが、世界でも例を見ない探検的活動団体である。 私たちのカンリガルポ調査や、神戸大のカンリガルポ最高峰ロウニ峰遠征、中村さん達のイラワジ川源流調査などが報告された。昼間の報告会以上に、酒の入る夜の部が本番かもしれない。北は北海道から九州までの会員が集まり、熱い弁舌がくりひろげられた。通信情報が幅を利かす現在においても、面と向かい合うことで共鳴できるところに大きな意味があり、たいへん有意義であった。

探検的山旅
まだ外国人が訪れていない土地というのは魅力的であるが、そこに暮らす人々のことを一番に尊重したい。辺境では耕作など、その土地で生活することのできる戸数や人口は臨界状態であり、過酷な条件を信仰が救っている。訪問によって物心両面で必ずインパクトを与えてしまうわけだから、それを最小限にする工夫が必要だ。 具体的には、コミュニケーションと文化尊重の双方の意味で同じ民族の人に案内してもらうことを提唱したい。信仰にかかわる事柄は最も慎重を要する。例えばチベットではゴミは燃やしてはいけない。人が使った物を煙にすることはできない。煙は人間界と天上とを結ぶ聖なる道と考えられているからだ。 異教徒が足を踏み入れてはいけない場所もあるし、山は信仰の対象である。登山であれトレッキングであれ、よそ者が対象として良い場所は、受入機関や協会団体に頼らず直接確認するべきだ。偵察はルートの確認の意味よりも、むしろ相互理解の確認であり礼儀である。 私たちの調査行はチベット族のスタッフ達に支えられている。辺境の村出身ながら利発で地元受けするガイド、方言を通訳してくれるカンパ族のドライバー、問題時に意外な能力を発揮するコックなど、皆、本職とは別の才能も発揮する。土地の人達が異国人の我々を受け入れてくれるのは、士気統一された気のいい彼等のおかげなのだ。私たちは新たな土地を探検すると同時に、いつもの面々との再会を楽しんでいる。
カンリガルポ山群ラグ氷河

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