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ニューズレター5月号 世界の山旅、辺境の旅


Newsletterより抜粋
 文 編集者 黒川 恵

■隔離施策
 マスコミが白ずくめ集団を追いかけていた頃、北京での新型肺炎(重症急性呼吸器症候群SARSサーズ)による市民の隔離は着々と進行していたようだ。中国政府は、事の重大さに気がついて、あっと言う間に隔離施設を作り上げた。だから、その中での患者の死亡率は分母が確定しているから確度は高くなるはずだ。
 患者の隔離がこの病気との戦いの最初の一歩になることは、ベトナムが制圧宣言をするまでの過程で証明されている。遅ればせながら中国の対応が進んできたことは良いことだと思う。患者の発生率、と言うよりも現出率と言い替えても良いと思うが、それが少しづつ低下していることも希望を与えてくれる。

■院内感染と基礎疾患
 インフルエンザの死亡率は、0.04%と言われているが、これは、市販の薬での改善や自然治癒までが分母にあるわけで、インフルエンザと一括りにしても症状に大差があることは明白である。それが死亡率に表れているのだろう。とくにインフルエンザでは院内感染が少ないことと、この新型肺炎に院内感染が圧倒的に多いことには注目したい。
 新型肺炎は、謎の肺炎と言われながらも少しづつそのベールが剥がされてきて、いまでは空気感染のおそれを言う者はまずいなくなった。また、死亡者の大半が高齢者や、がん、糖尿病など何らかの基礎疾患があり抵抗力が低下した状態であったことも指摘されている。高まる死亡者数に焦点があたることはしかたのないことであるが、疑い例で隔離された人たちが実は罹患していなかったことなどや、世界中の累積症例数に対してすでに退院あるいは回復など治癒した人たちが45%近くいることについてももっと報道されてよいのではないだろうか。

■別名"中国肺炎"?
 この病気の特効薬や予防ワクチンはまだ完成していないが、日本国内の医療機関での対応にも進展がみられるようだ。でも、どうして日本人や韓国人に深刻な罹患者が表れないのだろうか。ラッキーな側面と水際での努力の他に特別な因子でも影響しているのだろうか。 
 広東省から始まったとされるこの病気の伝播は、中国から切り離せるものではないから、いっそのこと新型肺炎でなく、台湾の政治家が言うように"中国肺炎"と言い替えてもらいたいくらいだ。とはいっても病気に国境や政治思想の区別はないから、台湾も中国も連帯して新型肺炎撲滅の合同作業をもっと進めてもらいたいと、誰しもが考えているだろう。日中国交正常化30周年を迎えたのだから、日本政府の役割も重要になるはずである。
 北京から帰国した日本人留学生の、「わたしはばい菌扱い」という新聞投稿を読んだ。短文ながら名文で感銘を受けた。すなわち、帰国して風呂に入れられ、その後に入浴する家族のためにその湯はすべて流されたということ、母親の友人も訪ねてこなくなり、祖母の法事への出席も遠慮したこと、銭湯に行こうと考えた留学仲間は家族から、年寄りを殺す気かとたしなめられたことなどがつづられていた。なんてことだ。家族の気持ちはわかるけど、日本人はいつからパニック症候群に罹患してしまったのか。

■マスクの効能
 電磁波対策と主張する白衣と白マスク姿が岐阜や長野の林道にたくさん現れ、いったい何事かと驚いたが、白ずくめ集団以外でもマスク姿はやたらと目につくときがあった。とくに成田空港での取材に目立つ。そこで、最近成田空港に出かけたわが社の社員に「みんなマスクしているのかい?」とたずねたら、「いいや、まあ一握りですかね」との答えだった。ああよかった。たしかにテレビ映像の白マスクの後ろでは、普通の姿の人たちがたくさん歩いているではないか。
 なんでマスコミは、白マスクを追いかけるのだろう。ぼくはいま、エイズ発生の初期の頃やオウムの連中の奇妙な風体を想い出している。エイズのときは人類存亡の危機のように言われ、アフリカ旅行は危険だとまで言われ、キリマンジャロ登山者も減少したくらいだ。非加熱血液製剤での発症患者への理解にも時間がかかった。そしてオウムは仮面の裏の凶暴性が表に出て、エイズはいまでも静かに浸透している。
 マスコミが正体不明で目立つ話題の主を追いかけるのはわからないでもない。新型肺炎と白ずくめ集団への取材姿勢は、ここに共通項があると思う。しかし、正体不明だからと言う理由だけで追いかけまわし、ベールを剥がせと迫るのはいかがなものか。剥がすベールは新型肺炎を先にしてほしい。
 ところで日本の厚生労働省は、この新型肺炎の予防対策では一般の人にとって、医療従事者が使用するN95等の高規格マスクの着用は必要ないと呼びかけている。それはそうであろう、新型肺炎は、接触感染や飛沫感染の可能性が高いと言われている。これは、1メートルくらいの至近距離で感染者と正面から対面し、さらにつばを飛ばされる危険性との遭遇率の問題である。しかし、感染者の体外に出たウィルスが付着した部分に触れる可能性を考えると、新型肺炎感染地域では、手洗いやうがいなどの徹底が有効とされている。

■機内感染は止まっている
 各国の空港や、航空会社も搭乗客の落ち込みに悲鳴をあげながら、この病気の封じ込めのため努力に努力を重ねている。その結果について、世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局長は、「機内の感染は3月23日で止まっている」と新聞(5月15日朝日新聞)で語っている。
 この新型肺炎について、WHOは5月2日、感染地域指定の見直しのため、その広がりと深刻さの度合いによって3段階に区分した。感染の広がりが最も深刻な「高感染地域」には、いずれも渡航延期勧告が発出されている。中程度の「中感染地域」や、国外からやってきた患者に直接接触した人だけが感染した「低感染地域」の区分がある。情報不足ですぐには区分できない地域というものもあった。

■感染地域指定解除
 さらにWHOは、これらの感染地域においても、20日間感染者が出なければ、感染地域の指定は解除されるとしている。現在、指定地域から解除された地域は、ベトナムのハノイやカナダのトロント、モンゴルのウランバートルやアメリカ合衆国である。

■がんばれ、中国、くたばれサーズ
 "世界の工場"でもある中国から、一日も早くこの病気を駆逐しないと、観光業界だけの不振にとどまらないことが、連日のように新聞の経済面で指摘されている。とはいえ、WHOは、中国全土にこの病気が蔓延していると言っているわけではない。感染指定地域は限られた地域であり、そこからの伝播を危惧しているのである。その思いは中国政府も同じはずだ。だから、伝播の確認がされていないチベットであっても現在は入域制限が発出されている。それだけ中国は本気になってこの病気と戦っているのだと思う。
 とっくに"不況特定業種"に指定されているわが旅行業界にとって中国は、この春まで起死回生の大きな魅力を秘めた旅行目的地として注目されてきた。しかし、ここへきて台湾まで巻き添えにして、まるで疫病神のように扱われはじめ、中国政府もさぞ口惜しい思いをしているだろう。
 いま、日本の旅行業者は、広大な中国の中にあって、この病気の伝播が確認されていない地域への旅行を催行すべきか、それとも中止すべきか、適切な判断を求められている。旅行は自己責任とは言いながらも催行にあたっては、旅行業者が主体的に判断しなければならないからだ。だから、その判断の助けとなるWHOの発出情報を基礎にした日本外務省の渡航情報は、適切な判断を示唆するものでなければならない。国民として、国に寄りかかるだけのつもりはないが、中央省庁発出情報はそれなりに重い。そして、世界の観光業界に与える影響もそれなりに大きいわけだから、わが国の責任もまた重いということではないだろうか。
 本日、わが国の有事関連3法案が衆議院を通過した。この法律は、国として、絶対に国民を有事の巻き添えにはさせないぞ、という覚悟の裏打ちがなくてはならないとぼくは思う。平和の成就もまた国の責任だと、勝手ながら一人の国民として、ぼくは考えている。「平成」は、平和の成就なのだから。
(平成15年5月15日記)




 
国立感染症研究所 感染症情報センター発出情報
  http://idsc.nih.go.jp/index-rj.html
(WHO発出情報日本語訳文)

重症急性呼吸器症候群(SARS)の「最近の地域内伝播」が疑われる地域(全世界対象)

A(低い) 中国・湖北省、江蘇省、陜西省
輸入症例であるSARS「可能性例」が、個人的接触により、一つの世代に限って(すなわち二次感染によって)地域での「可能性例」を発生さしめた場合。

B(中等) 中国・河北省、吉林省。
フィリピン・マニラ市。シンガポール
地域内で1世代を超えた感染連鎖(三次感染以上)によるSARS「可能性例」がみられるが、すべての症例がSARS「可能性例」の既知の接触者として、事前に確認され、経過観察下にあったものからの発症である場合。

C(高い) 中国・北京市、広東省、香港特別行政区、内蒙古自治区、山西省、天津市。
台北市(台湾)
「可能性例」との接触が確認されていない人々の間で現地での可能性例が発生した場合。

(注)感染の派生した環境にかかわらず、その地域内での感染が最も強く疑われる複数のSARS「可能性例」が報告された場合に、「最近の地域内伝播」が起こったと考える。 

最後の地域で感染したと考えられる「可能性例」が死亡あるいは適切に隔離された後、20日以内に新しい地域で感染したと考えられる例が出なければ、この地域はこのリストから削除される


アルパインツアーサービス株式会社では、新型肺炎(SARS)の影響に関し、WHOが指定するA・B・C区分の地域及び日本外務省が「渡航の是非を検討してください」とする地域への主催旅行は実施しておりません。なお、中国全土への主催旅行は7月10日出発まで実施しておりません。7月11日以降出発の中国のコースについては、6月10日に発表します。

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