世界の山旅を手がけて49年 アルパインツアー

車で訪れるガンジス源流の聖地バドリナート（3,122m）の背後には、氷雪の鋭鋒ニルカンタがそびえています。初期のエベレスト登山をはじめヒマラヤで活躍し、名著「キャンプ・シックス」などの著者でもある英国の偉大な登山家フランク・スマイスは、月光に輝くニルカンタの幻想的な姿を見て涙を流したといいます。彼はニルカンタを世界でもっとも美しい山に挙げています。寺院の背後にそびえる聖山ニルカンタを仰ぎ見る巡礼者たちが、手を合わせたりひざまついたりする姿に、この山が人の心をうつ美しさをもつ名山であることは間違いないでしょう。

「♪いつかある日、山で死んだら、古い山の友よ、伝えてくれ・・・」人々に広く愛唱されるこの詩の作者は、フランスの登山家ロジェ・デュプラ。彼は1951年にナンダデビの主峰と東峰を結ぶ縦走という画期的なプランの登山隊を組織し、この名峰に挑みました。最終キャンプから頂上の縦走へ向かうデュプラとヴィニュ。霧の間に登っていく2人の姿が見えたのを最後に、彼らは2度と戻って来ませんでした。この詩のとおり、名山の氷雪に永遠に消えたのです。ヒンズー教の女神の聖山であるナンダデビ（7,816m）は、インドのガルワール・ヒマラヤの最高峰で、世界の名山に数えられる秀峰です。車で訪れる尾根上のアウリ高原（2,800m）の山上のホテルからは、いながらにしてこの名峰が望まれます。（アウリは冬にはインドを代表するスキー場になります。）

広大なインドを貫いて悠々と流れる聖なる河ガンジス。その源流はガルワール・ヒマラヤです。ヒマラヤに広く足跡を印した偉大な探検家ロングスタッフは、ガルワール・ヒマラヤを「アジア大陸でもっとも美しい山岳地帯」と賞讃しています。ガンジスの源流は二股に分かれており、右股がアラクナンダ川、左股がバギラッティ川です。右股のアラクナンダ川の源流にはニルカンタなどの聖山が、左股のバギラッティ川の源流にはシブリンなどの聖山がそびえています。10億人のインド人が誕生から死までをゆだねる母なる大河ガンジスの源流には、ヒンズー教の聖地が点在しています。インド周辺国から、遥かなヒマラヤの山奥の聖地を目指して、はるばるやってくる巡礼者の姿は、物質文明に生きる私たちに何かを語りかけずにはおかないでしょう。