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About Altitude Sickness / 高山病について

増山 茂 プロフィール

了徳寺大学健康科学部学部長。
ボリビア高所病理研究所客員教授。
ボリビア高所病理学研究所客員教授。
ヒマラヤ、テンシャン、カラコルム、アンデスなどでの登山や調査研究歴がある。
世界低酸素会議常務理事、日本登山医学研究会常任幹事、日本山岳会会員、ボリビア山岳会会員、ラパスクライミングクラブ会員。

急性高山病とは?

高度を稼ぐと酸素が少なくなる。では、どれくらい少なくなるか?空気中の酸素は、富士山(3,776m)で平地の3分の2.エベレストのBC(5,200m)で半分。エベレスト頂上(8,848m)で3分の1.体内の酸素の減り方は空気中よりさらにきびしく、富士山で半分、エベレストBCで3分の1、エベレストの頂上で4分の1までになっています。酸素は我々ヒトには必須なエネルギー材料です。それがエベレストBCで3分の1しかなければ、わるくすれば死にいたり、死ななくとも体にさまざまな失調がでるのは当然のことです。急に高度をあげた(低酸素状態になった)際に出てくるこの失調を「急性の高山病」と呼んでいます。

低酸素の程度

エベレストBCで体内の酸素は3分の1になるといいましたが、これはちゃんと低酸素環境に馴化(じゅんか)した場合の話です。うまく低酸素状態に馴化できないともっとひどいはずです。実際はどの程度でしょうか。酸素と結合している動脈の赤血球ヘモグロビンの割合、酸素飽和度SPO2(%)で表しましょう。平地ではほぼ100%に近くなります。表1にエベレストの クンプー谷のトレッキングを例にして示します。 この表は、日本の代表的なトレッキング会社各社と高所医学の専門家などで構成されている「高所低酸素血症研究所」が、その各社主催ツアーに参加された方々のご協力を得て作成したものです。下界ではSPO2が90%を割ると酸素吸入を考える、80%を下回ると危ない、と考えるのが普通ですから、エベレスト街道のトラッカーはおどろくべき低酸素状態で行動していることがわかります。各高度で平均値から標準偏差の2倍を下回っている人は馴化が追いついていないと考えられます。危険値として示した値を下回るようだと標準的とはいえません。

(表1)エベレスト街道での酸素飽和度(対象者414名、17〜71歳)
標高(m)2,3502,7003,5003,9004,4004,800
SpO2平均(%)93.291.185.884.582.678.7
標準偏差(m)2.52.64.55.24.85.6
危険値(平均ー標準偏差×2)88.285.976.874.173.167.5

どんな症状がでるのか

顕著に表れる症状は頭痛ですが、全身が低酸素状態なので、やられる臓器によっていかなる症状も起こりえます。国際的には以下のようにまとめることができます。

A 急性高山病
新しい高度に到達した際に起こる症状。頭痛、および以下の症状のうち少なくともひとつを伴う。消火器症状(食欲不振、嘔気、嘔吐)、倦怠感または虚脱感、目眩またはもうろう感、睡眠障害。おおよそ、2500mの高度に急激に登高すると25%に上記症状が3つ以上現れる。3500mの高度ではほとんどの者が上記症状を経験し、うち10%は重症化するとされる。
B 高地脳浮腫
重症急性高山病の最終段階と考えられる。急性高山病患者に精神状態の変化か運動失調が認められる場合。急性高山病症状がないときは、両者とも認められる場合。
C 高地肺水腫
以下のうちすくなくとも2つの症状がある。安静時呼吸困難、咳、虚脱感または運動能力低下、胸部圧迫感または充満感。また以下のうち少なくとも2つの徴候がある。少なくとも一肺野でのラ音または笛声音、中心性チアノーゼ、頻呼吸、頻脈。

急性高山病の重症度評価

国際的な約束事は前述の通りなのですが、実際に使われているのは症状兆候をわかりやすく記入する調査票です。(高度馴化アンケートやチェックシート)です。 前述したエベレスト・トレッキング・ツアー会社で入手することができます。(調査票を使用する際は、体の酸素レベルを的確に知るためのパルスオキシメーターを使用することが前提になっています。あえて酸素の乏しいところへでかけるのですから、多少の症状がでるのはやむを得ません。肺水腫や脳水腫などへ重症化させないように、注意深く自分自身の体を観察する必要があります。

高度障害になりやすいパターンと標高

急激に高度を上げすぎないこと、これが基本です。ゆったりとした日程であれば低酸素に体の馴化が追いつきます。一般にSPO2の値が90%を割り込むと体に大きな低酸素ストレスが加わり始めます。これをなんとかこなしたあとでも、次に80%を切る際にはかなり危険な低酸素状態に入るといってよいでしょう。表1によると、それぞれ標高3000m、4600mくらいでしょうか(各人によってこの高度はかわります)。トレッキング中に迎える高度の壁です。

予防と対策

図1 標高3500メートルにおける酸素飽和度の年齢分布 以上の高度は、エベレスト街道だとナムチェバザールに到着する日、そしてツクラの坂を登る日に相当します。この高度をはじめて越す際には睡眠・休養を充分とるようにしましょう。食事、とくに行動中のまめな糖分と水分の摂取は重要です。お酒を飲みすぎたり、下痢を放置するのは危険。脱水やその逆の浮腫を招きやすい。カゼのようなウィルス感染も危険因子です。頻繁な衣服の着脱によって保温を適切にし、発汗をコントロールすることも大切。過激な運動や、一方でじっとして動かないのも禁物。他人の目を気にせずのんびり着実に歩きましょう。 高山病になりやすい体質は一部の人にはありそうですが、多くの場合はこれらのことに気をつけることで、防いだり症状をかるくすることができます。海外トレッキングに出かける直前に富士山に1、2回登ってトレーニングしておくのも有効です。 さて、高齢者は要注意。図1は標高3500mにおけるSPO2の年齢分布です。高齢者に低下する傾向があるのが読み取れます。50歳以上と以下を比較すると違いがはっきりします。また、この高度での危険値を下回るのはほとんどが50歳以上であることもおわかりいただけるでしょう。これ以上の高度をめざす高齢者は緊急用の酸素ボンベを忘れずに。低酸素は人の弱いところをねらいます。きちんと事前に健康チェックを行いましょう。慢性の疾患があって服用している場合など、主治医に緊急時の対策を確認しておかなければなりません。トレッキングの組織者やリーダーにもその情報を前もって知らせておきましょう。

「急性の高山病かな」と思ったら

注意深く自分自身を観察します。チェックシートを利用しましょう。軽い頭痛程度なら、バファリンやブルフェンなどの鎮痛剤を服用する程度ですみます。注意して行動を継続します。

頭痛に他の症状が加わり、かつ酸素飽和度SPO2が各高度での平均値をかなり下回るようでしたらダイアモックス(250㎎)を1日朝夕1錠ずつ(体の小さい日本人は半錠ずつでもよい)服用すると効果的です。ダイアモックスは脳の呼吸中枢を刺激する作用があり、低酸素で「眠ってしまった」脳を刺激し、酸素の取り込みを増やします。症状が消え、SPO2が改善しても1〜2日は継続して服薬します。頭痛以外の症状が残るうちは新しく高度を稼ぐことは禁物。休養を兼ねて停滞です。

ゆっくりした日程の場合でも、以前のトレッキングトレッキングで高山病に悩まされたことのある人ややむを得ずゆっくりした日程がとれない場合(レスキュー活動の場合や飛行機でヘリでいっきに4,000m近くに到達する場合など)には、まだ低い高度にいる当日の朝からダイアモックスを予防的に服薬します。

3,500mを超え、症状がかなりきつくなり、SPO2が危険値を割った場合、とくにそれが高齢者の場合は酸素の使用を考慮します。酸素吸入中のSPO2が90%を超える程度の流量を10分間吸入することから始めます。低酸素により脳に貯まってしまった有害な代謝物を排除できれば、これだけでいっきに改善されることがあります。酸素吸入を止めるとすぐ元の症状になってしまう場合は、吸入時間を少しずつ延ばしていきます。酸素ボンベの数と相談ですが、夜間睡眠時の少量の酸素吸入もとても効果的です。停滞しても改善がみられない場合、ひとつキャンプ地をもどすことも考えます。もちろん急性高山病患者を一人だけで下降させたはいけません。

急性の高山病が悪化して脳浮腫や肺水腫に進んでしまった場合は、早急に降ろさなければなりません。下降手段(ヘリコプターなど)を待っている間に、大流量酸素を吸入、ガモフバッグなどの携帯型加圧バッグを使用します。 高地脳浮腫にはデキサメサゾン、高地肺水腫にはニフェジピンが効果的です。両者とも劇薬ですので、医療関係者が同行するか、無線や衛星携帯電話などで連絡できる場合にのみ限りますが。

急性高山病の対策には個人だけでは限界があります。日程の決定・重症度の判断・進退の決断・パルスオキシメータの準備・医療救済機関との連絡手段の確保・酸素ボンベやガモフバッグの携帯・特殊な薬剤の用意など、トレッキングツアーの組織者やツアーリーダーの責任となる部分も大きい。信頼できるツアー組織者を選択することはとても大切です。

出典:月刊「山と溪谷」2002年4月号付録「海外トレッキング・ブック」より
「海外トレッキング・ブック」はアルパインツアーと山と溪谷社のタイアップ製作です。